海がないのに寿司店の数が人口比で日本一!? 山梨の“寿司愛”を探るべく、1泊2日で甲府の寿司を食べまくってきた
こんにちは。ライターのほそいあやと申します。
皆さんは、山梨県が「人口10万人あたりの寿司店の数が都道府県の中で日本一」(山梨県のWebページ「山梨県の日本一」より)ということをご存じでしょうか。
私も最近まで知らず、聞いた時にはびっくりしました。さらに、まぐろの消費量もトップクラス!(甲州市移住支援サイト「甲州らいふ」より) 「海なし県」の海の幸への憧れがあるのでしょうか……。
私は千葉出身。普段グルメレポート記事を書く機会が多いのですが、お寿司とはきちんと向き合ったことがないのです。もちろん魚介類は大好きなのですが、近所に漁港がある環境で育ったせいか、新鮮な魚に対する憧れのようなものはあまり感じたことはありません。きっと山梨には、お寿司を敬愛する心が培った独自の寿司文化があるのでしょう。
「山梨のお寿司ってどんな感じだろう?」という素朴な疑問を持ちつつ、“日常を離れた旅先でふらりと立ち寄った寿司屋で一杯”というものを気が済むまでやってみたいということもあり、「ひとり寿司食い倒れツアー in 甲府」を1泊2日で決行した次第でございます。
駅チカで便利。ランチセットの満足感がすごい「若鮨 甲府駅前店」
出かけた日は台風の影響で、JRの特急はおろか普通列車も運休が続発。特急あずさに乗れれば1時間半ちょっとで着くところ、新宿駅から甲府まで乗り換えを重ね、到着までに4時間ほどかかりました。
ランチタイムに到着する予定が、14時を回ってしまって、へとへと……。でも、なんだかんだ東京から近い山梨。不測の事態でも、日が暮れる前には着けて助かりました。これから食べるお寿司が何割増しかでおいしく感じられそうです。
信玄像に見守られながら、駅前の大通りをまっすぐ進みます。
大通りを進むと、「かっぽうぎ」という居酒屋があります。その2階が「若鮨」。こちらは日曜日のみ通し営業(ランチの後の閉店時間がない)です。ちょうど日曜日で助かりました。
わ~お寿司屋さんだ~、などと当たり前のことを口にしてしまうくらいお腹が空いています。
広い駅前通りを眺めながらお寿司を食べられるのは気持ちが良いです。
まずは駆け付け一杯ですよ。空腹に流し込む生ビールは最高ですね……。
「茎わさびの醤油漬け」を頼んだところ、「切らしているので」と茎わさびの塩漬けを持ってきてくださいました。なんと、これはうまい! 醤油漬けも好きだけど、塩漬けはぱりぱりでサラダ感覚。そして辛味も強い気がします。あっという間に生き返る私。
こちらがランチセット(2,200円)。選べる6カンにお刺身、天ぷらまでついてる……! 全部食べられるのかな、と思ってしまう量です。
ネタ、分厚っ! これが山梨の寿司の魅力なのか。握り寿司が誕生する前の江戸時代の寿司「田舎寿司」の文化を残すお寿司は、江戸前と違ってネタが分厚く、シャリも甘め。中トロ、めっちゃとろけます。東京のお店だとこの値段では難しいんじゃないかな……。
2杯目は何にしようとメニューを開くと、さすが山梨、お寿司屋さんのお酒の品書きでもワインが一番多いのですね。
一番人気のワインという「グレイス甲州」をいただいてみたところ、辛口ですっきりしていて魚の味を邪魔せず、いける。お寿司にワインは新体験でした。店長の深澤さんいわく、「山梨のワインはきつくなく、特に白ワインは寿司などの和食に合う」のだそうです。
海なし県の「ないものねだり精神」が寿司をおいしく進化させた
深澤さんに、山梨のお寿司についてお話を伺いました。なぜ山梨の人たちは寿司を好むのでしょう?
「山梨県民が特に寿司好きなのは、やっぱりないものねだりなんでしょうね。海のない山梨では昔は生魚が貴重で、おもてなし用のごちそうでした。それをありがたがる気持ちが、お寿司屋さんの多さにつながったのでしょう」
確かに、貴重な食材をおもてなしの用途で使う気持ちはよく分かる気がします。
「流通が良くなった現在は寿司への興味が薄れるのかといえばまったくそんなことはなく、山梨県民の“寿司愛”は変わりません。今も昔も、山梨で冠婚葬祭といえば寿司一択です。朝に豊洲市場を出発すると昼過ぎには到着して夜の営業開始には間に合うので、東京と変わらない」
ちなみに、長野だと間に合わないんだそうです!
「江戸前寿司の場合のメインは『魚』ですが、山梨は『お寿司』なんですよね。シャリにも職人それぞれのこだわりがあります。東京から来るお客さまは、ネタの分厚さにびっくりされます。横浜から車で来るお客さまや、静岡からランチタイムに来る女性のお客さまもいらっしゃいますよ」
静岡からも! 静岡から山梨にお寿司を食べに行くって、普通に考えたら冗談かと思ってしまいます。
「海沿いのお店に行くと魚が限定されるという事情もあるのかもしれません。豊洲市場から来るネタならいろいろ食べられますから」
そんな理由もあって他県からのお客さんも多いということなんですね。でも、実際に食べてみて分かったのは、一番の理由はシンプルに「おいしいから」なんだと思います。山梨のお寿司には昔から甘い「ツメ」と呼ばれるたれが塗られることが多いと聞いていたので、なぜなのか聞いてみました。
「もともとは海から魚を運んでくる時に色が変わってしまったのをごまかすといった目的もあったんじゃないかと思います。今でも『全部にツメを塗ってくれ』と注文する年配のお客さまもいます」
なるほど……なんだかめっちゃ面白いぞ、山梨の寿司!
デザートには、濃いあがり(お茶)とともに栗の渋皮煮。ごちそうさまでした!お腹がいっぱい過ぎて苦しい。
若鮨 甲府駅前店
住所:山梨県甲府市丸の内2-16-6 平和ストリートビル2F
TEL:055-226-6779
営業時間:平日・土曜 11:30~14:30 17:00~23:00 日曜・祝日 11:30~21:30 無休
公式サイト:https://www.wakazushi.com/shop_kofuekimaeten.html
隠れ家のようにひっそりたたずむハイソな寿司店「あくつ」
「若鮨」の大満足ランチでお腹が破裂しそうになってしまったため、市内観光を諦めてホテルで休憩。18時ごろに夜の営業を始めるお寿司屋さんに繰り出そうと予定していたのに、遅めのランチだったこともあって全然お腹が空きません。20時ごろにやっと起き上がり、目的のお店がある中心街へと歩き始めます……が、お店がなかなか見えてこない。
ここか? ここだ! 「あくつ」という、比較的新しいお店です。隠れ家のようだ。
通常では、お店の予約をするとその時間に店員さんがこの写真のように待っていてくれますが、一人でお店に入る場合は注意が必要です。何故なら、階段を上った先も隠れ家のようなつくりでどこが入り口か分からないのです(笑)。私は間違えて個室の扉をあけてしまいました。ごめんなさい。
店内に入ると、見晴らしの良いカウンター。マスターの手仕事がよく見えます。
よくお寿司屋さんにあるネタのケースではなく、フラットな作りのケースです。かっこいいな。
10,000円のおまかせコースを頼んだところ、「女性だと食べ切れないと思うので……」と8,000円コースをお勧めされました。ではそれで! 1杯目のお酒は、山梨県大月市の酒造ということで「旦(だん) 純米吟醸 愛山」にしてみました。ほど良い酸味と、酒米「愛山」ならではの旨味が特徴。
そこにやってきたもずくと白子! 最高かよ、ですよ。
左から、ひらめ、生だこ。本わさびもよいあんばい。
最初の握りは、すみいか。「ねっとり」と「こりこり」の間くらいの歯ごたえです。シャリは固めの赤シャリで、存在感がある。東京ではこのようなシャリには出会ったことがないです。はじめは少し驚きましたが、私はとても好きなタイプ。
左から、こはだと、ししゃもの昆布締め。固めの赤シャリは、淡泊な光り物の魅力も引き立たせているなぁ……と思いました。
これは、ぶりしゃぶ。大好物なのでうれしい。ネギにぶりを巻く演出が良いですね。ぶりの脂がさっぱりして、食感も加わっておいしいです。
店長の阿久津さんは、頻繁に東京へ足を運び、目利きをして、食材を仕入れています。そして日々、寿司屋という形にとらわれず創意工夫した和食を研究しています。
「寿司屋でアヒージョを出してもいいんじゃないか、なんて考えますよ」
寿司職人の作るアヒージョ……魅力的な言葉。食べてみた過ぎる。
左からしめさば、いわし、まぐろ赤身。はいもう全部おいしい。特に、美しく包丁の入ったいわし、脂が乗っていて超おいしい。
これはさんまの塩焼きです。なんだこの、おいしいところだけ切り取ったようなさんまは。日本酒が足りない!
そして頼んだのは、超レアな山梨の地酒「二十一代 與五右衞門 純米吟醸」。江戸時代から醤油を造っていた河口湖にある井出家というお家が、幕末から業務拡大して、お酒も醸造し始めたそうです。すっきりとして酸味があり、白ワインのようにお寿司に合います。
めったに出回ることがないそうで、日本酒好きの方でも知っている人の少ないお酒かもしれません。お酒に詳しい店員さんがいるので、そういうお話も聞けて楽しいのです。
ここで土瓶蒸しの登場。おいしい日本酒と交互にちびちびと……至福。もしかして山梨って天国なのかな。
握りのラストを飾るのは、ホッキ貝とトロ。このおいしさは芸術です。
そして、感動したのがこの茶わん蒸し。なんと具は梅干しのみ。和食のお吸い物に梅干しを入れることにヒントを得たそうなんです。
混ぜるとみるみるスープ状に。これは……すごくおいしい。卵と出汁と梅干しだけで完璧な世界になっている。梅干しの酸味が卵でやわらぐことと、アミノ酸とクエン酸の相性に着目したのだそうです。飲む茶わん蒸しか、固形の卵スープか。とにかく面白い発見でした。
この8,000円のおまかせコース、かなりお値打ちだと思います。ごちそうさまでした。次回は体調を万全にして10,000円コースを頼んでみたいなあ。
あくつ
住所:山梨県甲府市丸の内1-14-19 日原ビル2F
TEL:055-236-6677
営業時間:17:00~24:00(LO22:00) 不定休
甲府駅から40分で行ける大自然。定番の昇仙峡はやっぱり楽しい
快晴に恵まれた2日目。昨日おいしいお寿司を食べたせいか体が軽い。ホテルをチェックアウトし、甲府駅前から景勝地「昇仙峡」行きのバスに乗り込みます。遠足だ~~~。
街中を走っていくバスはあっという間に山道に突入。どんどん山深くなっていきます。
バスを降りると、切り立った渓谷の風景が広がっていました。ごうごうと音を立てて流れる川を横目に、滝を目指します。
茶屋やお土産屋さんのある小道を抜け、渓谷の遊歩道へ。滝はもうすぐそこです。
仙娥滝(せんがたき)は30メートルの落差を誇る名瀑です。これまでいろいろな滝を見てきましたが、こういう迫力と優美さを兼ねている滝ってなかったかもしれない……。音も「ズババババババ!」と轟音で爽快! 見ているだけでストレス解消になるぞ。
滝に現れる虹。滝では特に珍しい現象ではありませんが、見るとなんだか良いことがあるような気がします。パワースポット感高まる。
切り立った岩を見てもパワースポット感高まる。ありがたや~ってなる。人間って単純ですね。
昇仙峡は水晶の産地としても知られていて、水晶やパワーストーンのお店がたくさん。こちらの昇玉堂では、巨大なローズクォーツが祭られています。
直径85cm、重さ850kg。触るとパワーがもらえるらしいので触ってみました。パワーはよく分からなかったのですが、冷たくて気持ちよかったです。
お堂の近くの茶屋では、昇仙峡ならではのスイーツがいただけます。
こちらが「水晶玉」という和菓子。黒蜜ときなこをかけて食べるそうなのですが、私は何もかけずに食べるのがおいしいと感じました。ほんのり甘くてちょっとだけフルーティーな後味です。
昇仙峡
住所:山梨県甲府市高成町
公式サイト:https://www.shosenkyo-kankoukyokai.com/
昇玉堂
住所:山梨県甲府市猪狩町1338
TEL:055-287-2158(昇仙峡観光協会)
公式サイト:https://www.shosenkyo-kankoukyokai.com/spot/%E6%98%87%E7%8E%89%E5%A0%82/
昼からゆっくり飲めるカジュアルな寿司屋「板前寿司」
13時ごろ、甲府に戻ってきました。昼食を取るお寿司屋さんを探します。中心街の老舗のお寿司屋さんは仕込みなどで開いていないことが多く、こちらの「板前寿司 甲府店」を選びました。
板前寿司は、東京に本社のある江戸前寿司です。12店舗のうち11店舗が東京の都市にありますが、残りの1店がこの甲府店なのです。そこらへん、ちょっと気になる。
ちょうどランチのお客さんが引いた時間帯で空いています。少し歩き疲れたし、カウンターでゆっくりとお酒を飲みたいな。
まずはビールと、生マグロなどの海鮮・卵の黄身などを混ぜて食べる「ばくだん」。ばくだんにはカニや数の子も入っていて豪華です。
本まぐろ大トロ(税別398円)、本まぐろ中トロ(税別298円)。お手頃価格ながら、ちゃんととろけるトロをいただけます。
シャリが甘くなく慣れ親しんだお寿司ですが、クオリティが高い。唯一の東京以外の出店に甲府を選ぶあたり、自信があるのかも? などと思いました。この価格なら毎日でも来られるし。
そしてあわびの軍艦。肝がついてくるのが超うれしい。
ワインリストを見ると、すごい品ぞろえ。これを見てワインにしようかと思ったけど、あわびの肝にはやっぱり日本酒かな……。
せっかくなので山梨のお酒を選びます。「春鶯囀」(しゅんのうてん)。かなり辛口です。山梨には銘酒がたくさんありますね。富士山麓の水がおいしいからでしょうか。
「日本酒に合うと思うのでどうぞ」と板さんが小鉢をくれました。謎の魚卵! たらこですか? と聞くと「のどぐろの卵」だそう。すごい珍味だ! しょっぱいけどまろやかさがあって、濃いコクもあります。これはいい魚卵。のどぐろは卵もおいしいんですねえ。
板前寿司 甲府店
住所:山梨県甲府市丸の内1-15-6 地球堂ビル1F・B1F
TEL:055-230-1501
営業時間:月曜~金曜 11:30~15:00、17:00~22:00 土曜 11:30~23:00 日祝 11:30~21:30 不定休
公式サイト:https://itamae.co.jp/shop/kofu.html
甲府のインスタ映えスポット。明治~大正~昭和初期の甲府城下町を再現した「甲州夢小路」
帰途に就く前に、ちょっと寄り道していきます。甲府駅北口からすぐのところにある「甲州夢小路」は、小江戸情緒満載のストリート。古民家が移築されているほか、時を告げる「時の鐘」も再現されています。
絵になる空間に、お土産屋さんや飲食店が軒を連ね、歩いているだけでわくわくします。
もちろんワインのお店もありますよ。
私が心奪われたのは、かわいいワイングラス。ちゃんとしたものを持っていないし、記念に買って帰ろうかしら。山梨のお土産といえば信玄餅があまりにも有名だけど、ワイングラスっていうのも乙じゃないですか。
ああ、かわいい(笑)。この旅の良い記念になりそうです。
飲み切りワインと信玄餅(やっぱり買った)とともに帰りの特急あずさに乗り込み、「ひとり寿司食い倒れツアー in 甲府」が幕を閉じました。
一人でふらっと「山梨で寿司」、最高でした
いや~~~、夢のような2日間でした。「山梨のお寿司ってどんなだろう?」という興味を抱いて訪れた今回の山梨。江戸前のお寿司との違いで印象深かったのは、シャリが個性的なことでした。全体的に甘めの傾向にあり、食べ応えがあります。ネタの方はというと、基本的なネタが期待外れということがなくちゃんとおいしい、そして分厚い。信頼できる品質だと思います。山梨県民のお寿司に対する敬愛は、食べる者にも伝わる、心地よいおもてなしそのものでした。東京や静岡から山梨にお寿司を食べに行っちゃう常連さんの気持ちが、痛いほど分かりました。
そして憧れの「日常を離れた旅先でふらりと入った寿司屋で一杯」を体験できたのが山梨で本当に幸せでした。いちげんの一人客にも優しくしてくれて(魚卵もくれるし)……甲府の人たちは旅の人にも温かいと聞いていたけど、その通りでした。日本酒もワインも豊富っていうのも素敵。山梨でお寿司屋さんのハシゴ、本当におすすめです。
山梨の寿司はサイコーだぜ! これからも進化を遂げていってほしい!
◆
文:ほそいあや……1975年生まれ。猫好き。著書に「ゆる猫生活」(玄光社)。人生においての目標は食べたことのないものをひとつでも多く食べること。旅先ではまだ見ぬ珍味に出会うため目を光らせている。
編集:はてな編集部
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