長野・山梨でウイスキーの蒸溜所と聖地を巡る。東京から1泊2日の小旅行

長野・山梨でウイスキーの蒸溜所と聖地を巡る。東京から1泊2日の小旅行

こんにちは、ウイスキーとバー飲み、食べ歩きなどについて書きつづるブログ「東京ウイスキー奇譚」の中の人、子供銀行券と申します。

突然ですが、日本のウイスキーが世界でここ数年非常に注目されているのをご存じですか? 海外の権威あるウイスキーコンクールで、本場スコットランド産のウイスキーを押しのけて日本のウイスキーが輝かしい成績を収めているのです。

せっかく日本に住んでいるのに、日本のウイスキーについてよく知らなかったり、ウイスキーって何だか難しそうで……と敬遠してしまったりするのはあまりにもったいない。実は東京からそれほど離れていないところに、世界に誇るウイスキーの蒸溜所があるのです。少し敷居が高いように思われがちなお酒・ウイスキーですが、実際に造っている現場を見てみると、ウイスキーのことがよりよく分かり親しみも湧くかと思います。

ウイスキー蒸溜所を巡り、ウイスキー好きにとっての聖地と呼ばれるバーや地元の人に愛されるバーにも足を延ばせるという、世界のウイスキー好きがうらやむような体験が、東京から行きやすい山梨と長野で、しかも週末を利用した1泊2日の小旅行でできるのです。ウイスキーについて軽く解説しながら近隣の観光スポットも併せてご紹介してまいります。

サントリー白州蒸溜所(山梨県北杜市)

新宿から特急あずさに乗って2時間弱、小淵沢駅からシャトルバスに乗って15分ぐらい、甲斐駒ヶ岳の麓の深い森の中にサントリー白州蒸溜所があります。ここでは有名なシングルモルトジャパニーズウイスキー「白州」が造られています。

世界的に見ても森に囲まれた蒸溜所は珍しく、ウイスキーの本場スコットランドでは原料の麦や出来上がった製品を運搬するのに便利という理由で海の近くか川の近くにあることが多いです。南アルプスの山々に磨かれた水と豊かな森の緑が、白州蒸溜所のウイスキー造りを支えています。

近年のジャパニーズウイスキーの人気の高まりを受け、工場見学の予約を取るのはなかなか難しいことも。かなり前もって訪問の計画を立てる必要があります。でも、製造工程の見学以外でも、十分足を運ぶ価値がある場所なのです。

ウイスキー博物館では、「白州」にまつわる歴史やこだわり、世界のウイスキー文化に触れられます。開店直後のショップ「イン・ザ・バレル」に足を運び、「白州」をお土産に……と思ったところ、あったのはノンエイジ(熟成年数表示のないもの)のミニボトルと、蒸溜所限定のウイスキーのみでした。入荷が不安定で在庫が流動的なため、品切れとなる場合があるのだとか。昼前には蒸溜所限定のウイスキーも売り切れていました。


ファクトリーショップ「イン・ザ・バレル」

そして一番楽しみにしていた「BAR白州」。ここでは「白州」ブランドをはじめ世界のウイスキーや限定品など約30種類のウイスキーを取りそろえているため、さまざまなウイスキーの飲み比べができるのです!

ここでウイスキーの造り方をざっくりと説明させていただきます。

大麦を粉末にしてお湯に溶かして麦ジュース(麦汁)を作り、酵母を加えて発酵させてアルコール分を作り出し、蒸溜によってそのアルコールと味わいを凝縮させます。この時に出来上がる原酒は無色透明なホワイトスピリッツで、「ニューポット」と呼びます。白州蒸溜所で原酒の仕込みに使う水は軟水で、軽快な味わいとなり、大阪の山崎蒸溜所で造られる「山崎」の重厚で華やかな原酒とはタイプが異なります。

ニューポットを樽に入れ、長い間熟成させます。白州蒸溜所では大きさや形状が異なる蒸溜釜やさまざまな樽を使い分けることで、原酒の造り分けを実現して、独特で奥深い風味のウイスキーを生み出します。原酒が熟成していく過程で、甘さや香り、渋みなどが樽から原酒に移り、原酒自体の酸化、他の香りを覆い隠してしまう硫黄分などが揮発していくことで、味と香りが変化していきます。

樽詰めしたウイスキーは、揮発により年に数%、原酒の量が減ってしまいます。これは「天使の分け前(エンジェル・シェア)」と呼ばれています。25年の熟成を経ると、ウイスキーの原酒は当初の5割程度にまで減ってしまいます。だから熟成年数の長いウイスキーは希少で、値段が高いのです。


BAR白州の店内

ここを訪れて複数のウイスキーを飲む機会があれば、ぜひそれらを飲んで感じた味や香りについて、口に出すなりメモするなりして言語化してみてください。「深窓の令嬢のような」というたとえでもいいですし、具体的にチョコレートやマンゴー、白桃、ミルクキャラメルを感じる、などでももちろん構いません。

ウイスキーを飲んで言語化することで、自分がどんなフレーバーやテイストを持ったウイスキーが好きかが見えてきます。まず自分の好みの1本を見つけることが、よりよくウイスキーを知るための第一歩になります。


場内の有料セミナー「白州森香るハイボール体験」でハイボールの作り方を教わった。自分で美味しく作れるのはうれしい

サントリー白州蒸溜所
住所:山梨県北杜市白州町鳥原2913-1
TEL:0551-35-2211
営業時間:9:30~16:30(最終入場16:00) 年末年始・工場休業日休
公式サイト:https://www.suntory.co.jp/factory/hakushu/

マルス信州蒸溜所(長野県上伊那郡宮田村)

「マルスウイスキー」を知っている人はなかなかの通かもしれません。

規模が小さいため生産量は多くないのですが、由緒正しいウイスキーの造り手です。スコットランドでウイスキー造りについて学んだニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝氏がまとめた通称「竹鶴ノート」の提出先は、当時摂津酒造で竹鶴氏の上司だった岩井喜一郎氏。その後、岩井氏はウイスキー蒸溜所の設計や指導など、本坊酒造のマルスウイスキーの誕生に尽力しました。その伝統を受け継いでいるのがマルス信州蒸溜所です。

2013年には「マルス モルテージ 3 plus 25 28年」が国際的に有名なウイスキーコンクール「World Whiskies Awards 2013」(WWA2013)で世界最高のブレンデッドウイスキーの栄誉に輝くなど、海外でも評価されています。

そのマルス信州蒸溜所は、長野の駒ヶ根駅からタクシーで10分くらいのところにあります。1つ目に取り上げたサントリー白州蒸溜所のある小淵沢駅からは電車で2時間ほど、松本駅からは1時間40分ほど。

蒸溜所は自由に見学でき、ウイスキーが熟成される樽貯蔵庫、その隣の糖化・発酵と蒸溜を行う棟を見て回ればおしまいです。ですが、ウイスキーの製造工程を一通り理解するのに、こんなにシンプルで分かりやすい蒸溜所はありません。作業している社員の方にいろいろ質問することだってできてしまいます。

薄暗い樽貯蔵庫の扉を開けると、たくさんの種類の樽がラックに保管されています。

シェリー酒造りに使われた樽でウイスキーを熟成すると、干しブドウやアンズのような甘い香りと、しっかりとした琥珀色が付きます。バーボン造りに使われた樽で熟成させるとバニラや麦、ハチミツの甘味と香りがもたらされ、比較的薄い色のウイスキーができます。ここではシェリー樽、バーボン樽に加えてワインの樽なども使われていて、それぞれについて解説されています。

また、小さい樽で熟成させる方が樽に接触するウイスキーの割合が高くなることから、樽の影響を早く、強く受けやすくなります。蒸溜所の標高の高さと気温の変化の大きさがどのようにウイスキーの熟成に対して影響するかなどについても解説があり、より深くウイスキーについて知ることができます。

気に入ったウイスキーに出会うことがあったら、それがどのような樽でどのくらいの年数熟成されたのか、ラベルを見て覚えておくと、自分の好みの一杯を次に見つける時に役立ちます。

上の写真の桶は、新しく導入されたオレゴンパイン材の発酵槽。手前は、長年使われてきた鉄製の発酵槽。これらの発酵槽で麦ジュースを発酵させます。

岩井氏が設計し、1960年から2014年まで実際に使われていた蒸溜釜が、屋外に展示されています。現役の蒸溜釜もこのオリジナルの蒸溜釜と同様の設計となっていて、伝統が守られています。仕込み水は地下120mの深さの井戸から採っています。

マルス信州蒸溜所は1985年(昭和60年)に竣工しましたが、ウイスキーの人気が陰りを見せたことから1992年(平成4年)に蒸溜を休止。2011年(平成13年)2月に再びウイスキーの蒸溜を始めました。現在、マルス信州蒸溜所では、最近の需要の増加に応えるため、大規模な拡張工事が行われています。新しい姿の蒸溜所は、2020年9月から見ることができるそうです。

こぢんまりとした蒸溜所を見られるのは今のうち、せっかくなので見ておいた方がいいかもしれません。

ショップでは、入手がなかなか難しい数量限定のウイスキーも飲むことができます。

本坊酒造株式会社 マルス信州蒸溜所
住所:長野県上伊那郡宮田村4752-31
TEL:0265-85-0017
営業時間:9:00~16:00 12月29日~1月3日休、臨時休業あり
公式サイト:https://www.hombo.co.jp/factory/shinshu.html

蒸溜所以外にも、見どころはいっぱい

せっかく駒ヶ根まで来たので、蒸溜所以外の場所にも足を運んでみたい……。そんなときは、蒸溜所近くの菅の台バスセンターからバスに揺られ、駒ヶ岳ロープウェイに乗るのはいかがでしょう。高山植物と紅葉の名所、標高2,612mに位置する「千畳敷カール」はロープウェイを降りればすぐそこです。

また、地元の人に愛されているバー「Arika」さんもぜひ。

駒ヶ根駅から歩いて4分ほど。マルスウイスキーの品ぞろえが充実したお店です。今ではもう入手が難しいマルスウイスキーの限定ボトルがそろっています。

マスターの松本さんから、地元でないと伺えないいろいろな話を教えていただきました。駒ヶ根名物の「ソースカツ丼」のお勧めは元祖の「きらく」さんだとか、マルス信州蒸溜所では若手も含め試行錯誤して工夫しながらウイスキー造りに励んでいるとか……。

宿まで帰る時に見上げた夜空の星の美しさは言葉にならないほど。ここで作られるウイスキーは良いものに違いないと確信しました。

Arika
住所:長野県駒ヶ根市中央15-21
TEL:0265-98-0675
営業時間:19:00~27:00 火曜、第4月曜休

伝統・伝説のバー「摩幌美」(長野県松本市)

サントリー白州蒸溜所、マルス信州蒸溜所の2つから少し北上したところにある松本は、バーが多くある街。そこに日本のウイスキー界における聖地のひとつ、2019年で41周年を迎えたモルトバー「摩幌美」があります。

オーナーの堀内貞明さんはまさにレジェンド。日本で初めてのウイスキーイベントにスタッフとして参加したり、会員制組織「スコッチモルトウイスキーソサエティー」の日本支部の創設メンバーとして活動するなど、日本のウイスキー文化を支えてこられた方で、スコットランドの閉鎖蒸溜所の研究でも世界に知られています。

せっかくなので、閉鎖蒸溜所のボトルをいただきました。1つは「Glen Albyn」。1846年から操業を始め、1983年に閉鎖された由緒ある蒸溜所。もう1つは、わずか9年間しか操業しなかった「Ladyburn」。どちらも非常に貴重なものです。

そしてウイスキーを味わいながら、閉鎖蒸溜所にまつわる著書を持つBrian Townsendの著書『Scotch Missed』を見せていただきました。堀内さんが閉鎖蒸溜所巡りを始めた際に、常に手元で参考にしていた本だそうです。

その最新版の謝辞のページには、堀内さんの名前もクレジットされています。自分が“バイブル”としていた本が何回かの改訂を経て、ご自身の貢献もあり、ついに自分の名前が載るようになったというのはきっと感無量でしょう。

また世界的に有名な雑誌『Whisky Magazine』の閉鎖蒸溜所特集で、堀内さんがスコットランド最古の蒸溜所があったフェリントッシュ(Fernitosh)の現在の第15代領主、Duncan Forbesと共に写真に納まっているところを見せていただきました(写真右側中段)。

跡形もなくなっている閉鎖蒸溜所の痕跡を探すためには、現地に足を運び、稼働していた当時の写真を手に、「あのガス灯は当時から残っているものだ」「あの塀はもともとは工場の壁だった」と照らし合わせるなど地道な作業が必要とのこと。「最近再建された蒸溜所のウイスキーが市場に出てきている、そういった動きはうれしいねえ」とおっしゃっていました。

ここ数年のウイスキーブームを受け、世界中で既存の蒸溜所で増産が進んだり新しい蒸溜所ができたりして、近い将来ウイスキーが供給過剰になってしまう可能性が指摘されています。

将来起きるであろう厳しい生存競争を生き延びるためには、時間をかけて熟成させた質の高いウイスキーをむやみやたらと目先の利益のために今売ってしまうのではなく、将来を考えて一定量温存しておくしかない――。やはり良い時も悪い時も経験されている堀内さんがおっしゃる言葉には重みがあります。

そんなお話を伺いながらまた希少な2杯を頂きました。

左側は「アラン」、摩幌美25周年記念ボトル。95年蒸溜、9年熟成のシングルカスク(特定の1つの樽の原酒のみ使ったウイスキー)、156本限定。

95年はアラン蒸溜所が設立された年で、わずか520樽しか生産されなかった幻のビンテージ。その樽を堀内さんが買われ、世界的に有名なウイスキー評論家・Michael Jackson氏に「もうこれ以上熟成させずに瓶詰すべきだ」とアドバイスされたので瓶詰めしたという1本です。非常に軽快かつフルーティで、今まで飲んだことのないタイプでした。

右側のボトルは摩幌美40周年記念、224本限定の「イチローズモルト」。製造元の「ベンチャーウイスキー」社長、肥土伊知郎氏の手によるブレンデッドウイスキー。華やかかつ軽やかで、後味は品の良いダージリンティーを思わせるものでした。

摩幌美は、入手困難なウイスキーを飲めるだけではなく、「堀内さんの数多くの引き出しからそれぞれの一杯についてのストーリーを伺いながらさらに美味しくいただきたい」、と思う人が訪れるバーです。もしかしたらお隣のお客さんは、そのたった1~2時間ほどの体験のために遠方より訪れているかもしれない、ということをぜひ念頭に置いて、ウイスキーを楽しんでください。

要予約で完全禁煙。よりお店の雰囲気を楽しむためにも、他のモルトバーを体験されてからの訪問をおすすめします。

摩幌美
住所:長野県松本市中央1-13-1 1F
TEL:0263-36-3799
営業時間:19:30~0:00 不定休(主に日・月・祭日休)
公式サイト:http://www.mahorobi.com/

今回この旅を終えて感じたのは、お酒は「農作物」だということです。

「蒸溜所」という工場で造られてはいますが、原材料である麦を水に溶かし発酵させ、蒸溜し樽詰めしたものを、自然の中にある熟成庫で熟成させていく……というプロセスを経てウイスキーは産まれます。

私たちの住む日本にはまだまだ美しい自然、森と水があり、そのおかげで評価の高いウイスキーが産まれることを再確認し、あらためてこの国に生まれてよかったと強く思いました。ぜひ皆さんも体験してみてください!

文:子供銀行券……2011年に山崎シェリーカスク2010を初めて飲んで衝撃を受け、アイラ島などスコットランドの蒸溜所を見に行ったり東京だけでなく全国のモルトバーを訪れたり。週2、3回はバーで飲んでいます。まだまだ勉強中。

編集:はてな編集部