我が家に一枚はあるかも? 長崎の隠れた名品、波佐見焼の里へ
約400年の歴史を持ちながらも、長年、その名が表に出ることはなかった波佐見焼(はさみやき)。2000年頃のあるできごとをきっかけに大ブレイクして以降、お膝元の長崎県波佐見町は、旅先としても人気を集めるようになりました。
使いやすく、暮らしに馴染む波佐見焼は、若い世代にも大人気。その技術や窯元のある風景は、唐津焼や有田焼とともに「日本磁器のふるさと肥前~百花繚乱のやきもの散歩~」として日本遺産にも認定されています。
波佐見町では焼き物の工房巡りができるのはもちろんのこと、元製陶所を再生した観光スポットも話題に。1日かけてぶらりと散策するのが楽しい場所です。
名前は知られていなくても、全国に流通していた波佐見焼
江戸時代初期から途絶えることなく、連綿と続いている波佐見焼。なかでも和食器の出荷額は全国3位を誇り、日本の家庭で幅広く使われています。でも、これほど長い歴史があり生産数が多いにもかかわらず、長くその名を知られる機会はありませんでした。その理由は、出荷する際、積み荷していた地名が商品に付けられていたから。江戸時代には積出港の名を取り「伊万里焼」、明治時代以降は積出駅の有田を取り「有田焼」と称されてきました。
そんな知られざる名品、波佐見焼が全国で知られるようになったきっかけは、2000年頃に起きた、生産地表記の厳密化の波。産地を明記しなければならなくなり、波佐見は有田焼の名称を使えなくなってしまったのです。それまで、有田焼と良好かつ密接な関係を築いてきましたが、必然的に「波佐見焼」を看板とし、新しい道を歩み始めることになりました。
歴史があるとはいえ、ほぼ無名での勝負となった波佐見焼。底力となったのが、長い間、分業制で培った技術力です。もともと波佐見町には、焼き物の型おこし、生地づくり、素焼き、運搬……などの専門会社があり、多くの町民が焼き物に携わってきました。つまり、街全体が大きな工房。「この器、型はお父さんが務める会社、生地はお母さんが務める会社、素焼きは隣のおじさんが務める会社で手がけている」という話も、波佐見では珍しくないのです。
そんな波佐見には昔から、農業の傍ら焼き物を作る「半農半陶」という文化が根付いていました。農作物が凶作で飢饉となった際は焼き物で生計を立て、焼き物が売れない時代は農業で生計を立て、次の世代へと文化を継承していったのです。江戸の大飢饉のときは「ここなら食べていける!」と、ほかの藩から陶芸家が移り住んできたという逸話も。
丈夫で使いやすく、デザインも追及した波佐見焼
丈夫で割れにくく価格も手ごろな波佐見焼は、いくつあっても便利だし、デザインも洗練されていて、飽きることがありません。いろいろと買いたくなったら、現地へ行ってみるのが一番! 波佐見町が位置するのは、長崎県の中央部。佐世保市と隣接するので、併せて旅のプランを立てるのも一案です。
「中善」は、創業100年を超える老舗の窯元。波佐見焼の特徴である「暮らしに馴染む焼き物」という伝統を守りつつ、食生活や流行の微妙な変化をとらえながら、愛着をもって使える器を作り続けています。誰もが知っている有名ブランドや量販店の製品も製造しているので、ひょっとすると、もうすでに愛用している人もいるかもしれません。
工場は大量生産が可能な立派な構え。といっても、誰もができる流れ作業をこなしているのではなく、絵付けや釉薬など、各工程の職人が手作業で丁寧に作品を仕上げています。敷地内にある「ファクトリーショップ 荷土」では、そんな素敵な作品を、市販されている価格よりお得に購入することができます。
◆中善
住所:長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1455
電話:0956-85-3033
「西山」も創業1865年の老舗。伝統を受け継ぎつつ、スウェーデンの有名な陶芸家、リサ・ラーソンとコラボレーションするなど、新しいことにも積極的に取り組んでいます。どの器もモダンなデザインながらリーズナブルなのは、オートメーションと手仕事とをうまく組み合わせているから。紋様をつける工程ひとつとっても、スタンプのように機械で自動的につけていくケースもあれば、職人が丁寧に筆で描くケースもあり、効率的な生産体制と高い技術力がみごとに調和しています。
「西山」の敷地内にもショップがあります。昔ながらの木造家屋を使ったギャラリー風の店内で、フリーのコーヒーをいただきながら、ゆっくりと品物選びをするのも楽しい時間。昔からある技術を受け継ぎ、新しい展開も見せる波佐見焼には、一時的な流行に関係なく、ずっと使いたくなるような魅力があります。
◆西山
住所:長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1087
電話:0956-85-3024
URL: http://www.cf-nishiyama.jp/
波佐見の楽しみは焼き物だけにあらず。「西の原」でショップ巡り
そんな波佐見町の楽しみは、器探しだけではありません。個性的なカフェやショップ巡りを楽しむのなら「西の原」へ。ここは、2001年に廃業した歴史ある製陶所が、カフェや雑貨店などに生まれ変わった複合スペース。広大な敷地内には、波佐見焼をはじめ雑貨を扱うショップや、個性的なカフェが並んでいます。
そのひとつ「氷窯アイス こめたま」は、注文を受けてから氷窯でアイスを作るお店。できたてホヤホヤならぬ、できたてヒヤヒヤの手作りアイスが人気を集めています。
ここは素材にこだわって、お米も手作りしています。アイスなのにお米??
というのも、そのお米をエサとして鶏に与え、その鶏が生んだ卵をアイスクリームの原料にしているから。さらに、アイスを入れるコーンは手焼きするなど、主役のアイス以外にも手間をかけています。もちろん、使っている器は波佐見焼。
アイスの「卵バニラ」を口にすると、くどさがなく、上品なお味。名物の「自家製もち米のワッフル黒蜜ときな粉添え」は、もちもちの食感と優しい甘みが、素朴なのにクセになりそう。米作りから始まるユニークな製造方法もさることながら、波佐見の恵みをしっかりと味わうことができるから、旅心も満足させてくれます。
食器を眺めて、土地の恵みを食べて、好奇心や舌を満たしてくれる波佐見の旅。歴史ある陶器の里ですが、詳しい知識がなくても気楽に楽しめる、魅力的な焼き物の里です。
◆氷窯アイス こめたま
住所:長崎県東彼杵郡波佐見町2179
電話:0956-59-6841
URL:http://www.facebook.com/hasami.kometama/
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