震災から8年。復興が進む宮城県女川町へ、大好きな魚を食べに行く
もし次に行きたい旅のテーマが「新鮮な魚をたっぷりと食べたい、それも東京近郊ではちょっと食べられない魚種を!」ということであれば、宮城県女川町はどうだろうか。
女川といえば、2011年の東日本大震災による大津波で甚大な被害を受けた地区と記憶している人も多いと思う。
震災から8年が経過した2019年春。被災地から観光地へと復興を遂げようとしている現在の状況を確認しつつ、大好きな魚を食べまくる形で、女川を個人的に応援する旅をしてきた。
目的地がなぜ女川なのかというと、私にとって、たまたま縁がある場所だからだ。
震災の前年に当たる2010年5月、いわゆる脊索動物のホヤを取材するために、初めて女川を訪れた。世界三大漁場である三陸金華山沖を目の前にして味わった新鮮な魚介類のうまさと、温かみのある町の雰囲気に惚れ込んだ。「次はウニを食べるぞ」と意気込み、その2カ月後には再訪問。
震災後も、友人が住んでいるというわけでもないのに、女川との縁を切りたくなくて、2年に1度くらいのペースで訪れている。
今回の旅では、魚好きであれば、女川には行く価値があるということを伝えられればと思う。要するに、私が魚をたくさん食べるだけの一人旅だ。
大宮から、仙台と石巻を経て女川へ
2019年3月。自宅が埼玉県東部なので、東京駅ではなく大宮駅から新幹線に乗り、仙台駅まで行って石巻駅を経由した後、女川駅へと向かう。
東北方面へ北上する新幹線に乗るたびに驚くのが、関東エリアから仙台までの近さである。赤と緑の車両が連結されたヒーロー戦隊のような新幹線に乗り込み、8時2分に大宮駅を出発すると、ノンストップで9時10分には仙台駅に到着する。売店で買った週刊誌を読み終わらないうちに、気が付けば仙台駅到着のアナウンスを聞くほどの近さである。
その後、仙台駅で仙石東北ライン(快速)に乗り換えるのだが、ボタンを押してドアを開けるタイプの車両だった。電車の扉を自分で制御するというのが、なんだか楽しい。目的地にたどり着くまでに出会うこうした小さなときめきが、私は旅に来ているんだなと思わせてくれる。
そして、石巻駅で2両編成のかわいい石巻線に乗り換える。女川駅への到着は11時1分と、仙台駅を出発してから2時間近くかかった。とはいえ、このくらいの時間であれば、車窓から眺める景色を見飽きることもない。
素掘りの用水路、馬の鳴き声みたいな汽笛、変わった名前のアパート、人の乗り降りでドアから入ってくる冷たい空気。
こちらの列車に向かって、手を振ってくれる人がいた。3月末という季節柄、仙台か東京に旅立つ家族や友人に向かって手を振っているのかと思ったが、よく考えたらこれは女川行きだった。列車に対して手を振るという行為に深い意味はなかったと思うけれど、なんだか歓迎されているみたいでうれしかった。
程よい高揚感を胸に秘めて、定刻通りに女川駅に到着。さあ、魚を食べよう。
震災から8年が経過した、2019年現在の女川
女川駅は、石巻線の先端にある。そのすぐ先が女川港で、山々に囲まれたリアス式海岸の美しい海が広がっている。女川駅を中心に温泉や宿などがコンパクトに集まっているため、車がなくても観光できるのがありがたい。
震災前のマリンパル女川 photoby:女川町観光協会
震災後のマリンパル女川 photoby:女川町観光協会
以前は「マリンパル女川」という観光施設を中心としたにぎわいのある港町だったが、震災による被害を受けてしまった。そこで、2015年12月、違う場所に「シーパルピア女川」という新たな商業エリアが誕生した。
町の背景を考えると、どうしても浮かれた観光気分と真面目な視察気分のバランスが難しくなってしまうが、今回は基本的に楽しむための旅行だと割り切っている。以前、女川で訪れた飲み屋かどこかで、地元の方に「女川町に来て憐れむよりは、楽しんでもらった方が何倍もうれしい」と言われたから。
まずは昼ご飯。海鮮丼にウニを追加するという贅沢
まずは昼ご飯を食べようと、シーパルピア女川の傍にある「女川海の膳 ニューこのり」にやってきた。
女川の小乗浜(このりはま)で代々漁業を営んできた家族が経営する魚料理の店で、被災を経て、この新店舗で営業を再開している。前から気になっていたが、来店するのは今回が初めて。朝食を抜いてきたので、お腹はペコペコである。
メニューを眺めていると、これが大いに迷ってしまうラインアップだった。新鮮な魚を食べたいと思えば、選ぶのは海鮮丼あたりだろう。しかし「生うに丼」という選択肢もあれば、シーズン的にギリギリで牡蠣や白子も間に合うようなのだ。アナゴだってクジラだって食べたいよ。
迷いに迷って注文したのは、「特選海鮮丼」に単品のウニを組み合わせるという反則技だ。いや別に反則ではないのだが。海鮮丼だけだと大好きなウニが足りない、かといって生ウニ丼だと他の魚が食べられない。そこで、この卑怯ともいえる最強タッグ結成なのである。
結果的に、この選択は大成功だった。ご覧の通り、海鮮丼だけで十分過ぎる程の贅沢が味わえるのだが、別の皿には粒が立ったウニがまだ待ち構えているという心の余裕はどうだ。我が人生でここまでゆとりを感じたことはあっただろうか。
特選海鮮丼には、マグロ、クジラ、ホタテ、カニ、ボタンエビ、タイ、ネギトロ、ウニ、カンパチ、イクラなどがのっていた。ちなみに「特選」の上には「極上」と銘打たれた海鮮丼もある。
そして、満を持して食べたウニの品質がすごかった。箸で持ち上げても全く崩れないし、生臭さもない。ウニはこうあるべきだというウニである。また女川まで来て良かったと、この時点ですでに旅の成功を確信した。
女川海の膳 ニューこのり
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-1
TEL:0225-53-2134
営業時間:11:00 ~ 19:00 火曜休
公式サイト:http://conori.jp/
観光のメインスポット、シーパルピア女川を巡る
“具現化された幸せ”でお腹が満たされたところで、シーパルピア女川をゆっくりと見学する。訪れた日は平日ということもあり、観光客は少なかった。
一番にぎわっていたのは、京都出身の方が最近オープンさせたという「Yume Wo Katare Onagawa(ユメ ヲ カタレ オナガワ)」というラーメン屋。地元の方と思われる人々が行列を作っていた。なお、ここで提供されているラーメンがどんなタイプなのかは、この後、意外な形で判明することとなる。
女川町観光協会が運営する情報発信施設「たびの情報館ぷらっと」では、さまざまなパンフレットをいただいた。こういう町の資料ともいうべきものを、ホテルでじっくり読み込む時間が好きなのである。僕のおすすめは、マニアックな情報がたっぷり掲載されている「ほや本」と「さんま本」だ。
「ほや本」には知られざる養殖の方法や簡単なさばき方、「さんま本」には漁師さんへのインタビューや女川で水揚げされたものが高品質である理由などが掲載されている。加工品の紹介や、女川で食べられる店といった情報もばっちりだ。
施設では、自転車をレンタルできる。提携ターミナルがある石巻市や東松島市まで乗って行くことも可能だそうだ。
「たびの情報館ぷらっと」の隣にあるのが、水産業体験や調理実習が行える「あがいんステーション」。
photoby:あがいんステーション
photoby:あがいんステーション
フジツボなどがついている水揚げされたばかりのホタテをさばいて食べたり、女川の名産品である「サンマ昆布巻」を作ったりと、他ではなかなかできない体験プログラムが用意されている。僕は、この施設が出来てすぐの頃、ホヤに茹で玉子を入れて作る「ホヤ玉子」という料理を教わったことがあった。
いずれの体験も予約制で、参加可能な人数は5~20名。要相談だが、空きがあれば少人数でも体験が可能とのことだった。
また、お土産品も購入できる。魚関係はもちろんだが、意外と地元の日本酒がそろっている。女川のキャラクター「シーパルちゃん」グッズもバッチリだ。
女川水産業体験館 あがいんステーション
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原479-2
TEL:0225-98-7839
営業時間:10:00 ~ 17:00 月曜休(祝日の場合は営業し、翌火曜休)
公式サイト:http://www.onagawa.co.jp/
港で、女川名物「穴釣り」にチャレンジ
一般的な観光とは少し外れるかもしれないが、女川港でやっておきたかったアクティビティがある。かつて女川名物の一つだった「穴釣り」だ。
今も昔も女川港の岸壁にはトイレットペーパーの芯くらいの穴が開いており、その下は海につながっている。その穴から釣り糸を底まで垂らして、魚を釣り上げるという遊びである。
こんなので釣れるのか? と疑う気持ちは十分に分かるが、いやいやいや、本当なのだ。震災前には観光協会がチラシを作るほど力を入れていたレジャーであり、釣具屋で専用の仕掛けが売っていた。私も、実際にここで穴釣りをした経験がある。
こちらの写真が、当時釣り上げた魚だ。穴の直径ギリギリというのがたまらない。目の前に広々とした海があるんだから、素直に海釣りをすればいいのだが、この小さな穴から魚を釣るというところにロマンを感じやしないだろうか。
穴釣りでは、釣り糸を巻いたペットボトルを穴の近くに置いておく。魚が釣り糸を引っ張ると倒れる仕組みだ。
結論を言えば、今回は1時間ほど粘ってみたものの、ペットボトルが倒れることはなかった。やはり、港の構造が当時とは違うのだろうか。昔の記録を確認したら、2010年5月にはヒトデしかかからず、同年7月に再チャレンジしてようやく魚を釣っていたので、季節の問題なのかもしれない。
私にとっての女川は、港で穴釣りができる愉快な町であってほしい。またどうにか機会を作って、今度はもう少し暖かい時期に再チャレンジしてみたいと思う。
おやつに「海鮮浜めし」をいただく
釣れなかった釣りを楽しんだところで、シーパルピア女川にある「ハマテラス」という市場エリアを探索しよう。女川らしい海に関わる店がそろっていて、お土産に何を買うか迷い放題だ。
それにしても、ランチをいただいたニューこのりといい、1人でニヤニヤしながら迷うことが楽しくて仕方がない。
お土産品探しの1軒目は、ちょっと高級なかまぼこを扱っている「髙政」。
素材の魚が異なる笹かまぼこや、ウニやカキがのった贅沢なかまぼこ(カキのかまぼこは季節限定品)など、これまた迷うのが楽しい店だ。実際に買うのは明日の帰る直前として、それまでじっくり悩んでおくとしよう。
蒲鉾本舗 髙政 シーパルピア女川店
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-34 シーパルピア女川「地元市場 ハマテラス」内
TEL:0225-25-7557
営業時間:8:30 ~ 17:00 元日休
公式サイト:https://www.takamasa.net/
続いてやってきたのは、「リアスの詩」という昆布巻きを売るマルキチ阿部商店。
ここでは試食して美味しかったサンマの昆布巻きを購入し、さらに本日のおやつとして「海鮮浜めし」という釜飯をイートインでいただいた。
ランチに海鮮丼をたらふく食べてから、まだ2時間ちょっとしかたっていない。もちろんまだお腹は空いていないのだが、同じ海鮮系でも海鮮浜めしは別腹なのでセーフ。生もいいけれど、火を通した魚介類もうまいよね。昆布だしで炊かれたご飯が最高だった。
この時期は「海鮮浜めし」以外に、「カキ釜飯」や「ホタテ釜飯」が用意されていたが、旬に合わせて、小女子(こうなご:イカナゴという魚の稚魚で女川ではイカナゴをメロードと呼ぶ)やホヤといった女川ならではの釜飯も登場するそうだ。
マルキチ阿部商店 シーパルピア女川店
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-34 シーパルピア女川「地元市場 ハマテラス」内
TEL:0225-98-9989
営業時間:9:00 ~ 16:00(閉店時間は季節・イベント等により変動)飲食のみ水曜休
公式サイト:https://kobumaki.jp/
女川駅の駅舎には、温泉がある
photoby:女川温泉ゆぽっぽ
女川駅の駅舎には、温泉施設「女川温泉ゆぽっぽ」がある。絶対に入らねばもったいないほど必須のスポットだが、入場が20時30分までなので、夕飯の後だと入り損ねる可能性がある。そこで、ご飯を食べる前に一風呂浴びることにした。
壁には、地元の新聞社が避難所に貼り出していた手書きの号外が掲示されている。震災から3日後に初めて女川の被害状況を記したもので、「壁新聞」として世界的に有名である
風呂上がりに飲みたいシーパルちゃんカップもあるよ
photoby:女川温泉ゆぽっぽ
泉質はpH値8.8のアルカリ性低温泉で「美肌の湯」として知られており、お湯はほんのりとウコン茶のような薄い黄金色。入浴した後は、明らかに肌がツルツルしていた。やっぱり旅先に広々とした温泉があるのはうれしい。
湯船につかりながらなにげなく見上げた男湯と女湯を仕切る壁の上部には、震災前の町の写真が展示されていた。
女川温泉ゆぽっぽ
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-10
TEL:0225-50-2683
営業時間:9:00 ~ 21:00(最終入場は20:30)
公式サイト:http://onagawa-yupoppo.com/
ホヤにボラ。この土地ならではの魚を晩ご飯にいただく
ホテルにチェックインして一休みしたところで、17時30分に予約をしておいた「酒飯処かぐら」にやってきた。地元で水揚げされた魚がしっかりと食べられる、貴重なお店だ。
風呂上りだし、まずはビールを1杯といきたいところだが、今回はとにかく魚を食べると決めているので、いきなり日本酒を注文。お隣の石巻市に酒蔵を構える、平孝酒造の日高見だ。
お通しは豪華に3種類。蒸しホヤ、アンコウの共和え、ベビーホタテとメカブという女川らしいトリオで登場。うん、やっぱり日本酒から始めて正解だと、カウンターの下で小さくガッツポーズをした。
女川といえばホヤ。そして私にとって、女川との出会いの食べ物でもある。
産地以外では馴染みが薄く、鮮度の悪いものを食べると一生嫌いなままで終わってしまうかもしれない。しかし、とれたてほやほやのホヤを食べれば、カキやウニが好きな人なら絶対に惚れるであろう個性的な食材だ。まだ食べたことがないという人は、ぜひ良いホヤと出会ってほしい。ホヤは毎年5〜8月がシーズンで、今回は食べられないかと思っていたため、うれしい不意打ちだ。
蒸しホヤは“ホヤ初心者”でも食べやすく、冷凍でも味がほとんど落ちない。念のためお刺身はないかと確認したが、まだ身が薄い時期なので出せないとのことだった。ホヤに対して強いこだわりがあるからこその厳しい判断なのだろう。
アンコウの共和えも、また素晴らしかった。しっかりと甘く味付けされているのだが、肝のコクがあるからこそ、甘いのに酒とよく合うのだ。
ベビーホタテとメカブもまた良し。少しのネギが入ることで、メカブだけを食べるよりも、つまみとしての能力が高くなっている。
追加のつまみは、お任せで刺身の盛り合わせを注文した。マグロの中トロと赤身、縁側付きのヒラメ、カンパチ、タコなどがのっている。
この脂がのった美しい白身魚は、なんとボラだそうだ。そしてこの盛り合わせの中で、このボラの刺身が一番好みだった。綺麗な海の沖合でとれるボラは、ここまで美味しく育つのか。
首都圏ではなかなか見られない魚を食べられるのが、旅の醍醐味(だいごみ)。流通しにくいからこそ、旅先で出会ったときに「食べなければ」と一人で熱く盛り上がる。そういえば2年前にこの店を訪れたときも、盛り合わせの中にボラが入っていて感動したことを、今になってようやく思い出した。
もう一品、本日のおすすめに「タナゴ焼き」というのがあったので注文してみた。淡水にいる小さい魚ではなく、磯にいるウミタナゴのことだ。関東あたりでは自分で釣らない限り食べる機会がそうそうない魚だが、こちらではポピュラーな食用魚だそう。これを私が頼まなくて誰が頼むんだという謎の義務感が生じてしまう。
出てきたタナゴ焼きは、結婚式に出てくるタイの塩焼きくらい大きくて驚いた。あっさりしているけれどうま味が濃く、ボラと同じく水のきれいな場所で育ったことがよく分かる味わいだ。磯の香りがしっかりするのに、皮までうまいのである。頼んで悔いなし。思わず、宮城県大崎市の日本酒「伯楽星」(新澤醸造店)を追加で注文した。
まだ食べたいものはあったが、おやつに食べた海鮮浜めしがここにきて響き、もうお腹はいっぱいである。でも温かい汁物だったらほしいなと思ったときにスッと出されたのが、スケトウダラの入ったお椀だった。
そうそう、こういうのが欲しかったんだよと膝を叩かざるを得ない。浮いているフノリという海藻の歯ごたえも最高だ。女川では、ぜひ海藻もたくさん食べてほしい。
この時間のお客さんは私ともう1組の常連さんだけだったのだが、そこへラーメンの丼ぶりを手にした若者がやってきた。どうやら、あの行列のできていたラーメン店から、店主が出前を取ったようである。
せっかくなので、ラーメンを見せていただいた。いわゆる“二郎インスパイア系”というやつだろうか。極太麺の上に、たっぷりのモヤシや分厚い煮豚、脂がのっていた。どんなラーメンを求めて行列を作っていたのか気になっていたので、その答えを知ることができてラッキーだ。
さらにラッキーなことに、私の顔が物欲しそうだったのか、おすそ分けをいただいてしまった。まさかこうして締めのラーメンまで食べられるとは。しかも二郎系である。伝わるだろうか、この面白さ。
予想外の展開にニヤニヤしながら店を出て、すっかり暗くなった町を歩く。ちょっと食べ過ぎた1日だったかなと、申し訳程度のスクワットをして、早めに就寝した。
酒飯処かぐら
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-4 シーパルピア女川
TEL:0225−54−2387
営業時間:17:30 ~ 23:30 日曜休
公式サイト:http://onagawa-mirai.jp/seapalpier/kagura
早起きして、魚市場で朝食を食べる
旅行2日目。普段よりも早い6時前に起床して、宿から歩いて15分ほどの場所にある女川魚市場へと向かった。ここにある食堂が一般にも開放されている上、タイミングがあえば水揚げや入札の様子を見学できるらしいのだ。そりゃ早起きしてでも行くべきだろう。
外に出てみれば、早朝の気持ち良い空気が吸い放題というメリットもあった。「早起きは三文の徳じゃのう」と、お年寄りふうのしゃべり方で口に出してみる。
こうしてたどり着いたのが、女川市場食堂だ。
働く男たちのためのお得なメニューもあるが、ここはやはり観光客らしく派手なメニューを頼むべきだろう。「女川いわし丼」が食べたかったが、提供されている時期ではなかったので「刺身定食」を選んでみた。
女川で水揚げされたマグロ、女川で養殖されている銀鮭、ヤリイカ、ヒラメ、ツブガイ、クジラ、アマエビ。なかなか贅沢な朝食だ。
これだけでも満足なのだが、厨房の方がニコニコしながら、今日初めて水揚げされたからとトラウト(マス)の刺身をサービスしてくれた。この魚も女川の海で養殖しているそうで、冷凍品ではない滑らかな舌触りに感動した。
女川市場食堂
住所:宮城県牡鹿郡女川町宮ケ崎字宮ケ崎87
TEL:0225-53-5585
営業時間:6:30 ~ 9:00、11:00 ~ 14:30
魚市場で、水揚げと入札の様子を見学
せっかく来たのだから、水揚げの様子も見てみたい。女川市場食堂で気さくに話しかけてくれた方(後で知ったのだが、この方は女川魚市場の社長だった)によると、この日は8時くらいから漁船が入港するのでは、とのことだった。
建物の2階には、水揚げと入札の両方を見学できるスペースがある。ここでウトウトしていると、入港を知らせるサイレンが鳴った。
漁船が港に到着するのに合わせて、続々と人が集まり、フォークリフトも忙しそうに走り回る。魚はすぐに入札(セリ方式ではない)へと掛けられて、素早くどこかへ運ばれていった。この時期はまだ水揚げ量が少ないようだが、これがサンマの最盛期ともなれば、ものすごい迫力なのだろう。
こういった市場見学が一般受けする観光なのかは分からないが、私としては安全な場所からじっくりと見ることができてとても良かった。やっぱり早起きは三文の徳だ。
女川魚市場
住所:宮城県牡鹿郡女川町宮ケ崎字宮ケ崎87
TEL:0225-54-2111
営業時間:不定休
ダンボルギーニの展示を楽しみ、町の魚屋でウニを買う
宿に戻ってチェックアウト時間のギリギリまで休んだ後、シーパルピア女川に展示されている「ダンボルギーニ」を見に行った。自動車メーカーのランボルギーニではない。
これは、石巻にある今野梱包という段ボール会社の作品である。「色をなくしてしまった被災地に明るい未来を」という願いを込めて、誰に頼まれたわけでもなく制作したという、実物大のド派手な段ボール製スーパーカーだ。
これは写真で見るよりも現地で実物を見た方が、全て段ボールでできていることに対する驚きをはっきりと感じられると思う。段ボール製なので基本的に平面で構成されており、それがCGのポリゴンっぽくて面白い。
ダンボルギー二はさすがに非売品だが、お土産にちょうど良い商品も販売している。
Konpo’s factory
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-4 シーパルピア女川
TEL:0225-90-4235
営業時間:10:00 ~ 16:00 火・水曜休
公式サイト:http://damborghini.com/
続いてやってきたのは、1日目に昼ご飯を食べたニューこのりの並びにある、平初鮮魚店。観光客向けとはちょっと違う、町の魚屋さんだ。
我が家の近所ではまず見かけないような魚たちがデーンと並んでおり、魚好きの心がボヨンボヨンと弾みまくる。
特大サイズのアイナメかカレイを丸ごと買いたいところだったが、この後に移動することを考えて、女川産のウニにした。こちらは旅から帰った後にいただいた。1箱で2,200円ほどしたが、買って良かったと心から思えるうまいウニだった。
平初鮮魚店
住所:宮城県牡鹿郡女川町浦宿浜篠浜山2
TEL:0225-53-2771
営業時間:8:30 ~ 17:30 水曜休
女川最後の食事は、特選女川丼
さぁ、そろそろ女川を立つ時間が迫ってきた。この地で食べられるのはあと一食だけ。昨日迷っていたかまぼこなどをお土産に買い足しつつ、ハマテラスの一番奥にある「おかせい」へと向かう。
おかせいは女川に来るたびに寄る店で、今回はここの海鮮丼を締めの食事にすると決めていた。
この店では海鮮丼を「女川丼」と呼んでおり、普通の女川丼と特選女川丼が存在する。ボリューム自体はそれほど変わらないので、もちろん普通のものでも胃袋的には満足できるのだが、やはりここは特選を選ぶべきだろう。
ただし、さすがに昨日から食べ過ぎている気がするので、シャリを小盛りにしておいた。
2日にわたって食べ比べてみると、海鮮丼や刺身定食で提供される魚は、店ごとに意外と個性がある。おかせいでは、この旅でまだ食べていなかったアナゴやスジコ、サバや北寄貝、クジラの白身といった魚介類が、マグロなどの定番と一緒に並べられていた。果たして私はこの2日間で何種類の魚介類を食べているのだろう。魚介類ビンゴがあったら、きっと2列くらいそろっているな。
当たり前だが、魚介類には旬があり、ここ女川でも季節によって水揚げされる魚種が変わってくる。これからホヤがどんどんうまくなり、夏にはカツオが水揚げされ、秋になれば脂の乗ったサンマが集まってきて、冬がくればタラやカキのベストシーズンだ。もしかしたら今の時期が一番中途半端かもしれないと旅をしながら気付いたのだが、それでもこれだけの魚種がそろうのだからすごい。
どの魚介類も当然素晴らしいのだが、特に感動したのが真っ白なメカジキだった。宮城ではこのメカジキを珍重するのだが、マグロや白身魚とは一味違う独特の存在がこの丼に加わることで、特選女川丼という名前に意味が生まれるのだと思う。
帰りに売店の鮮魚コーナーをのぞくと、パンパンに膨らんだ鮮度抜群のホヤが売られていたので、喜んで買わせていただいた。生のホヤが食べられなかったことだけが心残りだったのである。
お魚いちば おかせい 女川本店
住所:宮城県牡鹿郡女川町女川浜字大原1-34 シーパルピア女川「地元市場 ハマテラス」内
TEL:0225−53−2739
営業時間:
鮮魚販売 9:00 ~ 18:00
飲食 平日10:00 ~ 16:00、土日祝 昼 10:00 ~ 15:00(LO)夜 17:00 ~ 19:00(LO) 無休
公式サイト:http://onagawa-mirai.jp/hamaterrace/okasei
これからも、女川の変化を見届けていきたい
帰る前にもう一度女川港へと戻り、女川交番をじっくりと眺めた。
私が行ったのは移転した新しい交番ではなく、震災当時の交番である。すでに他の瓦礫などは撤去されているが、この津波で倒れた交番だけは、震災の記憶としてこのまま残していくようだ。
津波は、写真中央の海抜16メートルに立つ病院(緑色の囲いがされている建物)の、1階天井付近まで到達した。この穏やかな海を前にして、ちょっと現実味のない高さである
あの震災は、まだたった8年前の出来事だ。それから8年間でここまで復興したこの町は、これからどう変わっていくのか。
シーパルピア女川にある「女川町まちなか交流館」に行くと、震災当時から現在までの様子、そして今後の復興計画が詳しく展示されている。その変化を見届けるため、いずれまた女川を訪れたいと思う。次は夏か秋がいいかな。
純粋に観光を楽しもうと思いつつも、やっぱりここが被災地であり、復興の途中であることを旅の端々でちょっと気にしてしまう。それが現時点での私にとっての女川だ。
ちなみに、女川で購入したホヤは、家に帰ってすぐに刺身でいただいた。まだ水っぽい感じはあるものの、言い変えれば瑞々しさとも表現できる柔らかさだった。やっぱり新鮮なホヤは唯一無二のうまさだ。今年はたくさんホヤを食べようと思った。
文:玉置標本……趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。
編集:はてな編集部
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