投稿者 : トラベル ライター、投稿日 2018 年 11月20日

地元民しか知らない「横浜」を巡る 1泊2日の“逃避旅行”のすすめ

観光客が訪れるべきスポットを、そこに住む人間に聞くことは果たして正しいことなのでしょうか。例えば、東京タワーやスカイツリーは間違いなく東京の観光名所ですが、東京の方は東京タワーやスカイツリーにはあまり行かないような気がします。地元の人間が必ずしも、万人受けする観光地を知っているとは限らない。しかし、地元の人間しか知らない名所も、また、あるのです。

ガイドブックにはあまり載らない「横浜」をご案内します

はじめまして、横浜に暮らして35年になるzaikabouと申します。横浜の名所についてはそれなりに知っているつもりですが、さて、横浜に遊びに行ってどこを見たらよい? と聞かれると、ハタと考え込んでしまいます。横浜中華街、山下公園、山手エリアの洋館、帆船日本丸、横浜ランドマークタワーの展望台、大さん橋、横浜赤レンガ倉庫。あるいはカップヌードルミュージアム 横浜や新横浜ラーメン博物館。お酒好きなら野毛(のげ)の飲み屋街。このあたりが一般的でしょうか。

お酒好きにはたまらない、野毛の飲み屋街
お酒好きにはたまらない、野毛の飲み屋街

もちろん、こういう場所は面白いし、自分でも行きます。大さん橋から夜景を眺めたり、朝早い時間に山下公園からみなとみらいに掛けてジョギングしたりすると、横浜、好きだなあ、と改めて思います。ですが、そういう場所については、詳細に案内してくれる観光ガイドがいくらでもあります。今回は、ガイドブックにはあまり出てこない横浜をご案内しましょう。テーマは、水辺と坂と異国の横浜。横浜という街の“ヘリ”を1泊2日でご案内します。

東京方面から横浜への旅行は「夕方」に「海」から始めたい

横浜は、小さな漁村に外交のための港を開いて発展した街です。だから、横浜に旅するなら海からはじめたいのです。ということで、今回の旅行の出発点は羽田空港。実は東京から横浜までは、季節や曜日限定で二つの定期航路が就航しています。

ケーエムシーコーポレーションのクルーズで横浜入り

一つは東京・竹芝客から伊豆七島を結び、横浜に寄港する「東海汽船」と、もう一つは羽田空港船着場と横浜を結ぶ「ケーエムシーコーポレーション」の航路。東海汽船は、季節により横浜への寄港がなかったり、あっても曜日が限られていたりとなかなかハードルが高い。

そのため、今回は定期便が就航しているケーエムシーコーポレーションのクルーズで横浜入りしてみました。しかしこちらも毎週日曜に1往復のみ。これから1泊2日の旅に出るって言ってるのに、日曜日だけじゃダメじゃん! と思うかもしれませんが、あえて出かけます。京急なら羽田空港から横浜まで急行で29分450円で行けるところを、90分2,500円かけて行く非日常感と、とてつもない無駄感。この旅は日常からの逃避行なのです

羽田空港船着場

羽田空港国際線ターミナルから、荒涼とした更地を15分ほど歩くと羽田空港船着場に到着します。以前は送迎バスがあったのですが、現在は徒歩か、国際線ターミナルから発着している路線バスのみのようです。しかし、この、何もない場所を歩くところから、非日常がはじまっています。

予約不要、直接船着き場に行けば乗れる船。この日の乗客は約10人。16時45分に多摩川に漕ぎ出した船は、左手に飛行機の格納庫や、発着する飛行機を眺めながら進みます。だんだん、誘導路に向かって近づいていくので、飛行機との距離も近くなり……。そして、誘導路の真下で停泊するのです。日曜日の夕方、ひっきりなしに着陸する飛行機のおなかを、真下から轟音とともに見送ること5機ばかり。飛行機好きにはたまらない……。

羽田空港

そうして再び、京浜運河から横浜に向かい進み始めます。徐々に夕暮れの時間。川崎から横浜にかけて立ち並ぶ工場やコンビナートが、夕焼けに映える姿を間近で眺めながら、大黒大橋をくぐれば……。ヨットの帆の形をイメージして建てられたインターコンチネンタル ホテル、高くそびえる横浜ランドマークタワー、よこはまコスモワールドの大観覧車が迫ってきます。飛行機、工場夕景、そして横浜の夜景。旅の入り口を満喫して、船は横浜・みなとみらいの、ぷかりさん橋に到着します。

川崎から横浜にかけて立ち並ぶ工場やコンビナート

横浜の夜景

羽田クルーズ 定期便
公式サイト:http://www.reservedcruise.com/teikibin/

横浜の“奥”に泊まる

陸に上がるころにはもうすっかり夜なので、まずは宿にチェックインします。クイーンズスクエア横浜の吹き抜けを通り抜け、帆船日本丸を左手に眺め、桜木町駅も通り過ぎると、街の様子はガラリと変わります。

横浜は、冒頭に挙げたような観光地を多く抱え、官庁街やオフィスビルが立ち並ぶ「関内・みなとみらい」が“表の顔”として知られています。しかしその奥には、古くから商店街が栄えている伊勢佐木町や、戦後の闇市から発展した野毛の飲み屋街、ディープな中華料理店や韓国料理店やタイ料理店などが並ぶ若葉町と福富町など、“別”の顔を持つ街があるのです。

今回はそんな奥の街へ。かつては川沿いや高架下に違法風俗店が並んでいましたが、十数年前に警察・横浜市と協力し、街ぐるみで一掃。現在はアートイベント「黄金町バザール」など、かつて風俗店だった場所を活用し、アートを中心に街を活性化させる取り組みが進んでいます。

黄金町バザール

今回宿泊するのは、このエリアで2018年春にオープンしたばかりの「Tinys Yokohama Hinodecho(タイニーズ 横浜日ノ出町)」。アメリカで人気の車輪が付いたちいさな家「タイニーハウス」に泊まることができるホステルです。一つのタイニーハウスが4人まで泊まれるドミトリーになっており、シャワーとトイレなど完備し、ベッドも広々。

Tinys Yokohama Hinodecho

カフェも併設されていて、昼はおいしいハンバーガーが食べられ、夜は22時までアルコールをいただきながらのんびり過ごすことができます。

さて、荷物を置いたら、せっかくなので銭湯に行ってみましょう。歩いて数分、伊勢佐木町商店街にある「利世館」へ。横浜には黒湯の天然温泉に入れる銭湯が多いけれど、ここもその一つ。繁華街のど真ん中にあるこの銭湯、刺青の人もいるし、特に女湯の客層は多国籍で、いろいろな外国語が聞こえてきます。

Tinys Yokohama Hinodecho
住所:神奈川県横浜市中区日ノ出町 2-166
チェックイン:16:00~22:00 チェックアウト:~10:00

カクテルも焼酎も寿司もうどんもあるバー

風呂あがり、夜はどこに飲みに行きましょうか。折角このあたりに来たなら、すぐそこにある定番の野毛も、もちろん魅力的。店の新陳代謝が激しく、若い人でにぎわっていますが、ここはあえて、横浜の多面性が感じられる場所へ行きます。

曙町「BAR&FOOD SUN」

「まともな料理が食べられるバー」というキャッチコピーに惹かれたのは、曙町にある「BAR&FOOD SUN」。コンクリート打ちっぱなしの壁、長いカウンターのある店内、落ち着いた風貌のマスター。メニューにはバーらしくカクテルが載っていますが、瓶ビールも日本酒も焼酎もある。食べ物は、麻婆豆腐、カレー、具たっぷり牛肉みそ汁、握り寿司。「100円つまみシリーズ」というコーナーにはきゅうりの浅漬け、自家製干し砂肝、ザーサイ炒め。なんだか不思議な雰囲気です。

曙町「BAR&FOOD SUN」

店主は中国・西安出身で、日本で会社勤めをしながらバーテンダースクールや寿司職人の学校にも通い、脱サラ後に店をはじめたそうです。ちゃんとしたカクテルが出てくるバーなのに、和洋中のメニューが並び、なぜか握り寿司まで出てくる不思議な構成も、なんとなく合点がいきます。

BAR&FOOD SUN ピリ旨ラム肉うどん

特にこのお店で食べてほしいのがピリ旨ラム肉うどん。近所の有名な中華料理店の人もわざわざ食べにくるそうで、澄んだスープの味わいは、バーで食べられるうどんのレベルを超えています。

伊勢佐木町周辺には中華街よりも現地感の強い中華料理店が多く、それらの店を巡るのもとても楽しいのだけれど、またのお楽しみにして、宿に戻ります。

BAR&FOOD SUN
住所:神奈川県横浜市中区曙町3-32-23 1F
TEL:045-242-6480
営業時間:19:30~04:00 火曜休
公式サイト:http://barsun.web.fc2.com/

朝食は24時間営業のタイ料理屋で

宿でぐっすり眠り、明け方。頭上を走る始発列車の音が聞こえ出し、しばらくベッドでまどろんでから起き出す。朝は部屋に用意された豆を挽いてコーヒーを淹れ、川を眺めながらデッキで一杯。すると、川辺で何やら準備している人たちが目に入ってきました。

川辺で何やら準備している人たち

このタイニーズには、宿とカフェともう一つ、近年徐々にメジャーになりつつあるSUPの拠点があるのです。

SUPとはスタンドアップパドルボードの略称で、ボードの上に立ちパドルを漕いで水上を進むウォータースポーツです。ここには2つのSUPの団体が拠点を作っており、初心者向けの講習会も行われています。自分も以前、体験したことがあり、桟橋から出発して海まで漕ぎ出しました。初心者でも驚くほどすぐに乗れて、優雅に水上を楽しめる、極上の時間です。

さて、朝ごはんはどうしよう。で、やってきたのは、川を渡って3分ほど歩いたところにあるタイ料理店「ジェイズストア」。料理の味がとても評判なんです。

朝からタイ料理? と思われるかもしれませんが、実はこちらは24時間営業で、どんな時間に行ってもメニューが同じ。本格派のタイ料理が朝イチから楽しめるのです。山と積まれたカオマンガイのパックがおいしそうで思わずテイクアウト。

ジェイズストア カオマンガイ

ちゃんとスープも付いて来る。しかもビニール袋に入れてそのまま渡されるのが、まんまタイの屋台だ! 宿に戻り、そのままデッキでいただきました。充実の朝ごはんです。

レンタサイクルを借りて、横浜の商店街をぶらり

荷物を片付けて宿を出発。今日は横浜の“ヘリ”を巡ろうと思います。坂道が多い横浜の移動に便利なのが、横浜コミュニティサイクル「baybike」です。

横浜コミュニティサイクル「baybike」

登録をすれば、すぐに電動アシスト自転車が使えるサービスで、横浜の中心部に貸し出し/返却できる無人のポートが80カ所ほどあります。

タイニーズから2分ほど歩いた黄金町のアート施設にもポートがあるので、そこから乗ってみます。スマホから操作し、通知される4桁のパスコードを自転車に取り付けられた端末に入力するだけで貸し出し完了。

横浜コミュニティサイクル「baybike」

電動なので山手や本牧周辺の急坂もパワフルに楽々登れます。では、安全に注意して出発!

横浜橋商店街

川を渡ってすぐに見えてくるのが、多国籍なお店が並ぶことで有名な横浜橋商店街。おいしい漬物店や惣菜店が並びつつ、日本ではあまりお目にかからないような中華食材店、中国東北部の料理が並ぶ総菜店、路地に入れば現地感たっぷりの台湾料理店、裏通りにはおいしいタイ料理店もあります。

自転車を押して進むと横浜橋商店街から三吉橋通商店街になり、さらに下町の雰囲気が強くなります。大衆演劇の小屋「三吉演芸場」、そして昔の駄菓子屋さんのような雰囲気の中で焼きそばが食べられる「磯村屋」。

磯村屋

その先を進むともっと下町度が高まってきます。昼から飲める角打ちが目に入りますが、今日は自転車なのでがまん。夕方なら、この近くの銭湯「仲乃湯」の露天風呂に入って、風呂上りに角打ちで飲むとサイコーですけどね。このあたりでも一番の急坂「大坂」をスイスイ上り、振り返れば横浜ランドマークタワーが見えます。

急坂「大坂」

外交の街として発展した横浜の一面を垣間見る

坂を上ったあたりは、細い路地が入り組み迷子になりそうな場所。猫に会いながら路地を進むと、横浜市民でもほとんどの人が知らない「中華義荘」があります。ここは山手の外国人墓地とはまた異なる、中国人のための墓地で、中国ルーツの方々が今でも静かに祈っています。

その先には桜の名所として知られる「根岸森林公園」が。ここにはかつて、居留外国人向けに作られた近代競馬発祥の地「根岸競馬場(横浜競馬場)」がありました。戦後は米軍に接収され、現在も一部敷地が米軍住宅などに利用されています。

根岸競馬場(横浜競馬場)

今も残る「旧一等馬見所跡」は廃墟好きのあこがれの場所ですが、老朽化のため中に入れる機会はなく、外観を楽しむのみ。中も見てみたいですが、仕方ありません。

そしてこの丘の上からまた広がる、日本離れした風景。緑豊かな道沿いに大きな家が並ぶ様子は、アメリカの西海岸のようです。

横浜カントリー&アスレチッククラブ

近隣にある「横浜カントリー&アスレチッククラブ」は、1868年(明治元年)の結成以来、今でも運営されているスポーツクラブで、さまざまな国の会員に利用されています。また坂の下にある「根岸外国人墓地」には、関東大震災で亡くなった外国人や、戦後ヨコハマの複雑な事情の亡骸が眠る場所。外交の街として驚異的な発展を遂げた横浜では、至るところでさまざまな国や人たちの歴史を感じられるのです。

根岸森林公園
住所:神奈川県横浜市中区根岸台
公式サイト:http://negishi-shinrin.jp/

横浜の海を眺めながら、旅を振り返る

ここからは坂道を降りてまた海辺に出ましょう。海辺で訪れてほしいのが「モンベル 横浜しんやました店」です。なぜわざわざモンベル? と思われるかもしれませんが、こちらの店舗は目の前が海で、カヤック体験ができるのです。お店自体も国内最大級の広さで、買い物にも便利。特にアウトレットの品ぞろえが豊富です。

モンベル 横浜しんやました店

このあたりでそろそろ旅も終盤。中心地まで戻って電動自転車をスポットに返却します(会員種別にもよりますが、この日は3時間半借りて1,050円でした)。
旅の終わりは、神奈川県民ホールの6階にある「英一番館」から静かに横浜港を眺めることにしましょう。落ち着いた雰囲気が漂う穴場のレストランで、山下公園を一望できます。目の前には横浜港。ここで昨日と今日の旅を静かに振り返ります。

英一番館

この後、すぐ近くの「横浜都市発展記念館」に行けば、今日体感したような横浜の歴史を学ぶことができるし、夏場なら個人的に横浜で最もフリーダムな「元町公園プール」でナイトプールを楽しんでもいいし、中華街に繰り出すこともできます。

モンベル 横浜しんやました店
住所:神奈川県横浜市中区新山下3-4-19
TEL:045-628-2466
営業時間:10:00~20:00 無休
公式サイト:https://store.montbell.jp/search/shopinfo/?shop_no=678545

英一番館
住所:神奈川県横浜市中区山下町3-1 神奈川県民ホール6F
TEL:045-662-5446
営業時間:11:30〜21:00(LO20:00) 年末年始を除き無休
公式サイト:https://eiichibankan.co.jp

観光ガイドにはあまり載っていない、少し変わった横浜体験。歴史と、地続きの今に思いを馳せながら、非日常の横浜体験をしてほしいと思います。

文:zaikabou…1978年生まれ。横浜、野毛のあたりの坂の上在住。出張ついでに飲み歩くことが楽しみな会社員。横浜の話題や出張の旅先での酒場めぐり、美術館めぐりの話が多いブログ「日毎に敵と懶惰に戦う」を2004年から14年間更新中。

編集:はてな編集部

[button style=’orange’ url=’https://www.expedia.co.jp/Yokohama-Hotels.d6048260.Travel-Guide-Hotels’ icon=’entypo-home’ fullwidth=’true’]横浜のホテルを探す[/button][button style=’orange’ url=’https://www.expedia.co.jp/Yokohama.d6048260.Travel’ icon=’entypo-info-circled’ fullwidth=’true’]横浜旅行・ツアーを検索[/button]